ストックオプションの交渉で

私は株式上場を準備しているベンチャー企業に管理部長として入社しました。このとき、私は別の会社に在籍したまま人材紹介エージェントを通じて、転職活動を行っていました。そして、このベンチャー企業の1次面接が管理部担当の取締役が面接官で、最終面接の面接官が社長でした。

人材紹介エージェントを通じて転職活動を行う場合は、報酬の交渉は、人材紹介エージェントを通じて行うのが常識です。なぜなら、人材紹介エージェントと採用活動を行う企業との契約書のなかで報酬の取り決めは、両者の間で行うと定めるのが一般的だからです。当事者の私と企業との間で、報酬の交渉を行うと、企業側のエージェントに対する契約違反行為となってしまいます。

しかし、私がこのベンチャー企業に入社したときは、私の直属の上司となる取締役との直接交渉となりました。社長との最終面接が終了したあと、取締役が入ってきて、「あなたに採用内定を出すことになりそうだが、報酬についてはどの程度を考えているか聞かせてほしい」と言われました。私は、報酬についてはエージェントを通した方が良いのではないかと話したのですが、直接私の真意を聞きたいとのことでした。

賃金規程が制定されていて、賃金テーブルが整備されている会社では、役職のつかない一般職スタッフや、課長クラスのポジションとして入社する場合ですと、報酬の交渉はほとんど不可能です。賃金テーブルに当てはめて報酬を決めるしか方法はありません。しかし、私が採用内定をもらった管理部長ポストは、権限と責任の大きい部長級ポストということもあり、このベンチャー企業の賃金テーブルでは報酬の幅を広くとってあるようでした。

私は、在籍中の会社でのポジションが経理課長で、年俸が700万円でした。このベンチャー企業では部長ポストですし、これから株式上場の準備作業を担当することもあり、年俸1000万円とストックオプションの割り当てを希望しました。ストックオプションについては、株式上場が成功した際の成功報酬という位置づけで希望しました。

取締役は、年俸1000万円については、少し天井を見て考えていましたが「社長から決裁を得る必要があるが、たぶん大丈夫だ」と答えました。また、ストックオプションについては割当株式数について検討する必要があるとの回答でした。この日は、最終面接とこの報酬の交渉で終えました。私は、この会社を出ると、すぐに人材紹介エージェントに電話でやりとりの内容を報告しました。そして、報酬については直接交渉を行い、年俸については合意できそうであるということと、ストックオプションについては調整が必要と伝えました。

エージェントの担当者からは、年俸とストックオプションについては、こちらからもベンチャー企業に連絡すると言われ、私は連絡を待つことになりました。

ストックオプションの割り当ては、資本政策上、安定株主に多めに配分する必要がありますし、創業当時からの古くからの社員に報いるという観点のほかに、私のような新参者でありながら重要ポストで短期間に会社に貢献した者への成功報酬という位置づけがあります。

私は、このベンチャー企業が株式上場する場合、時価総額が100億円から200億円の間に収まると想定しました。上場する前の会社の価値というのは、この5分の1程度で算定されます。つまり、仮に、上場前にストックオプションの割り当てを100万円分受ければ、おおよそ400万円の利益を得ることができるのです。私は、エージェントを通じて500万円分のストックオプションの割り当てを希望しました。これについては、3回から4回、エージェントを通じてベンチャー企業と交渉が行われましたが、結果的には250万円分のストックオプション割り当てということで決着しました。そして、無事に、管理部長として入社しました。